1話 口止め料
「優一はさぁ、好きな人とかおらんの?」
生徒の話声で賑わう昼休み。七月に入り夏休みも目前に迫る季節、一年三組の教室は熱気が充満していた。
その隅っこで俺と机を向かい合わせにして飯を食っている男子生徒から、そう問いかけられた。
「は? 急にどうしたんだよ」
「いやぁ、そろそろ君ともそういった話題を話してみたくてねぇ」
やたら演技っぽい口調で言う彼は、俺が高校に入ってから知り合った友人、太田大輔だ。天然パーマが特徴の彼は、やや小太りな体格のせいか俺よりも汗をかいていた。
「俺のが聞きたいならまずそっちから話せよ」
「拙者、二次元にしか興味がないゆえ」
「あっそ」
聞いた俺がバカだった。大輔は少しも恥じることなく、堂々とそんなことを言って見せた。
そんな言動に違わず、彼はいわゆるオタクという人種だ。それもかなり重度。
ただ、俺はそんなこいつと妙に波長が合うため、こうしてよく一緒にいる。
「ほら、僕は教えたんだから君も吐いちゃいなよ、優一氏」
「お前のそれは教えたうちに入らないだろ。……まあいいけど」
微妙にウザいノリの大輔に、呆れてため息が出る。どうやら大人しく従うしかないらしい。
「そうだな……三枝かな。まぁ、気になる程度だけど」
教室の中心で談笑しているグループに目を向ける。正確には、その中にいる一人の女子生徒。
三枝美咲。大人びて整った顔立ちは、可愛いというより美人という言葉がふさわしい。肩まで伸ばした美しいストレートの黒髪は、毎日きちんと手入れしているのが伝わってくる。
「ほほう。おぬし、趣味が合うではないか」
「なんだよ。三次元には興味ねぇんだろ」
「興味はない。が、あの巨乳は良き良き」
わざとらしく眼鏡をかちゃり、と正しながら大輔は言った。ただ、その言葉には俺も同意だ。
同級生の中でも三枝は、明らかに突出した大きさの胸を持っている。多分、俺の手じゃ思いっきり鷲掴みにしてもまだ覆いきれないだろう。
「ふむ。優一もあの巨乳の魅力には逆らえぬか。穴が開くほどあの胸を見おって」
「え、いやそういうわけじゃ、ないことも、ないけど」
どうやら、つい三枝の胸を見てしまっていたらしい。大輔は面白がるような視線を俺に向けていた。
「いやあのな、別に胸だけで決めてるわけじゃねぇぞ」
「そんじゃどこを見とるん?」
「んー、性格」
「優一、三枝さんと話したことあったかえ?」
「いや、ねぇけど」
クラス、いや学年の中でも男子の注目を集める三枝と、友達が大輔くらいしかいない俺との間に接点はない。二、三回話したことがあるかないか。
「なんていうかさ、三枝って飾らない感じがするんだよ。いつも自然体っていうのかな」
彼女の周りには、男女問わず人が多い。そして大体、俗にいう陽キャグループの中にいる。
ただ、その中でも彼女は着飾った言動をしない。無理に合わせず、それでいて笑顔を絶やさない。
見栄や虚勢を張る連中とは違い、嘘がない。俺は彼女のそういうところが好きだった。
「ほーん。体だけでは見てない、と」
「なぁ、俺ってそういうやつに見えてたのかよ」
「もしかしたらそうかもー、程度には」
「ひでぇ」
あはは、と互いに笑う。
そして大輔はぱく、と弁当の唐揚げを口に放り込んだ。それを飲み込むと、再び口を開いた。
「よし。それならば不肖、この太田大輔、そなたの恋を応援しよう」
「え、いやいいって」
首を振って否定した俺に、大輔は「なぜに」と聞き返した。
「いやさ、普通に無理だろ。俺と三枝だぜ? 無理無理。届きっこない」
クラスの隅にいる俺と、人気の中心の三枝。月とすっぽん。天と地ほど差がある。
それを理解できないほど俺はバカじゃない。すでに俺は、ただ遠くで見ているだけで十分と割り切っている。
「いやいや、優一。諦めたらそこで──」
「試合放棄してんの、俺は」
そこで俺はこの話題を打ち切るように、「ごちそうさま」と手を合わせた。弁当はまだちょっと残っているが、そんなに腹も減ってないしいいだろう。
大輔もそれで理解してくれたのか、その話はそこで終わった。
それから何事もなく午後の授業、夕方のホームルームと順当に時間が過ぎていった。そして、荷物をまとめて帰ろうか、というときだった。
「おおーい。ちょっといいか」
教室の入口のドアから、さっき出て行ったはずの担任が顔を出した。
「資料室の整理を頼みたいんだが。誰か放課後時間がある奴いるか?」
めんどくさい。クラスの全員がそう思っただろう。
うちの担任は、整理整頓をろくにしないことで有名だ。その担任が頼んでくるのだから、資料室はとっ散らかっているに違いない。
「はい。私、大丈夫です」
そこで、ただ一人手を上げたのは、三枝美咲だった。
誰もやりたがらないそれを進んで引き受けるその姿に、俺はちょっとだけ感銘を受けた、
「おお、三枝。悪いな。……あー、ただ、もう一人くらいほしいな。誰かいないかー?」
一瞬迷う。ちょっとの間だが、三枝と二人っきりになれる。それは魅力的だ。
だが、そこでノータイムで手を挙げるほどの度胸はない。まあ、別にいいか。どーせ何にもなんないんだし。
そう思った時だった。
「はーい」
隣から間抜けな声が聞こえてきた。そちらを見ると、大輔が俺の腕をつかんで手を上げさせていた。
「内田くんは放課後ヒマでーす」
「ちょ、大輔お前何やって──」
「お、そうか。じゃあ三枝と内田、頼んだ。鍵は職員室に取りに来てくれ」
俺が何かいう前に、担任は教室から去って行ってしまった。
「おい! 何やってんだ大輔」
「手が滑った」
「ばっちり喋ってただろ」
「じゃあ口も滑った」
明後日の方向を向いて、大輔は適当なことをのたまった。こいつまともに答える気がない。
ただ、気が収まらない俺はさらに言葉を続けようとした。
「あの、内田くん」
が、背後から女子生徒の声が聞こえて固まった。それに振り向くと、そこには三枝美咲が立っていた。
「ありがとう。よろしくね」
ふわりと微笑んで三枝はそう口にした。何気ない言葉なのに、思わず心奪われてしまう。
「あっ、えっと、ああ。よろ、しく」
完全にテンパってしまって、ぎこちない返答をしてしまった。滅茶苦茶恥ずかしい。後ろからくすくすと大輔の笑い声が聞こえてきた気がする。
「あんまり遅くなってもアレだし、もう行こっか」
「あ、そ、そうだな」
女子とろくに関わってこなかった自分を憎んだ。
が、三枝はそんな俺を笑ったりすることはなかった。本当にいい奴なんだろう。
「まずはあれだよな、鍵。職員室に行けばいいんだっけ」
「そうそう。私取ってこよっか?」
「いや、いいよ。俺が取ってくるから、先に資料室に行っててくれないか?」
「うん。わかった。ありが──」
そこで三枝は不自然に言葉を切った。俺が首をかしげると、彼女はポケットからスマホを取り出した。
電話でも来たのか、と推測する。が、三枝はスマホの画面を見て、少しだけ表情を暗くした。
「……三枝? どうかしたのか?」
「あの、内田くん。ごめん、ちょっとだけ用事ができちゃって……その、先に行っててくれる?」
「あ、ああ。別にいいけど」
三枝はもう一度「ごめんね」と言い残すと、足早に教室から出て行った。
そのまま職員室に行こうと思ったが、三枝の様子が気になった。スマホの画面を見た途端、わずかだが、明らかに陰りを見せた。
悪いとも思ったが、俺はちょっとだけ様子を見に行くことにした。
教室を出た三枝は、校舎の隅の階段へ向かっていった。そして周りを確認すると、足早に上の階へ走っていった。
首を傾げる。僕の高校は三階建てで、ここは三階だ。つまり三枝は、立ち入り禁止のはずの屋上へ行ったのだ。
優等生の彼女がそんなことをするのは、明らかに不自然だった。
「カツアゲとか、今どきそんなことないよな」
軽い冗談のつもりで口にしたのだが、ちょっと不安になった。
誰も見ていないことを確認し、僕も屋上への階段を昇って行った。
屋上のドアは軽く隙間が空いていた。以前教師から説明があったが、このドアは鍵がかかっているはずなんだが。
そう思ってよく見ると、鍵は壊れているようだった。
その隙間からそっと顔を出してみる。その視線の先。屋上の隅っこに三枝の姿はあった。
「え──」
そこにはもう一人、男子生徒がいた。その生徒は壁に寄りかかり、三枝はその前にしゃがみこんでいた。
「んっ、ン……っ、ぐ……っ」
男子生徒のほうは制服のベルトを緩めて、自らの男性器を露出させていた。
そして三枝は、ソレを──自らの口で咥えこんでいた。
「な……」
思考がまとまらない。目の前で起きている事象を、ただ映像として処理することがやっとだ。
さっき俺に穏やかな笑みを向けていた三枝が、今は男のものをしゃぶっているなんて。
「おい、何ボサっとしてんだよ。もっと舌絡めろ」
男子生徒の口から発せられた、威圧的な言葉でやっと我に返った。彼は、勃起したものを咥えている三枝の様子に、不機嫌そうに顔をしかめた。
いや、咥えているというより、咥えさせられている、というべきか。三枝は、男子生徒に頭をつかまれて、強引に動かされていた。
苦しそうな声が漏れているが、三枝に抵抗の意思はないようだった。ただ、感情の乏しい瞳は、何の景色も映していないように見えた。
そう考えた瞬間、その瞳が不意にこちらを向いた──気がした。
「っ……!」
瞬時に顔をドアから引っ込めた。ドクドクと心臓が暴れていることに今更気づいた。
三枝は、俺が覗き見ていたことに気付いたのだろうか。一瞬のことだったからわからない。
ただ、もう一度あの光景を直視することはできなかった。俺は、それを見なかったことにして、こっそりと元来た階段を降りて行った。
そのあと、俺は素直に鍵を取りに行って資料室に向かった。案の定、資料室は散らかっていた。本棚から出した資料が、机の上に無秩序に積み上げられていた。
ただ、そんなことはどうでもよかった。俺はさっきのことを忘れるように整理に没頭した。
そうしてしばらくすると、遅れて三枝がやってきた。
「遅くなっちゃってごめん! 内田くん!」
走ってきたのか、息を乱しながら三枝は俺に頭を下げた。
その姿は、いつもの三枝美咲そのものだった。さっきのはまるで夢だったかのように。
「ああ……いや、別にいいよ。気にすんな」
まだショックが抜けきらず、覇気のない声で答えてしまった。それが不安にさせてしまったのか、すまなげな顔で三枝は言った。
「あの、もしかして怒ってる……?」
「いや、そうじゃねえよ。……その、昨日遅くまでゲームやってて寝不足なんだ」
適当に誤魔化した。別に全部が嘘じゃない。昨日は自作ゲームのテストをやっていた。
「あ、そうだったの? じゃあ先に帰って休んだほうがいいんじゃない?」
心配そうに俺の顔を見て三枝は言った。その気遣いに、やはり良い奴なんだな、と思う。
だがそこで、彼女の髪の毛が少しだけ乱れているのが目に入った。いつもは、おろしたての服のように整えられているのに。
それは、走ってきたからなのか、さっき頭を掴まれていたからなのか。
「いや、平気平気。心配かけて悪いな」
その思考を振り払うように、作り笑いを浮かべた。多少訝しむような目を俺に向けたが、一応納得してくれたようだった。
その後は何事もなく作業は進んだ。下校時刻に終わるのか不安だったが、三枝の手際がいいおかげで日が沈む前に終わった。
「ふぅー……終わった終わった」
最後の一冊を本棚に仕舞った俺は、近くの椅子にどさ、と座り込んだ。
「お疲れ様。ありがとう、内田くん」
俺の隣に椅子を持ってきて三枝は言った。そこへ、ふう、と一息をついて三枝が座る。
隣に三枝が座っているという状況に、ややドキリとしてしまう。
「内田くんってもしかして、こういう仕事苦手?」
そんな俺の内心など知らないとばかりに、三枝は微笑んでそう言った。
「え、わかるのか?」
「うん。なんていうか、慣れてない感じがしたから」
あはは、と茶化すように笑いながら三枝は口にした。それがちょっと照れくさい。
「まあ、そうだな……俺、あんま部屋の整理とかしないし」
俺はそもそもあまり物を部屋に置かない。机とベッドとパソコンがあれば十分だ。
「そうなんだ。でも、男の子だからそんな感じだよね」
「そうそう。男はみんなそんなもん」
と、そこまで言ったところでちょっと後悔した。せっかく三枝の前なんだから、ちょっとくらい見栄を張ればよかった。
ああ、いや、さっきまでの作業ぶりを見られてるから意味ないか。
「でも、苦手なのに手伝ってくれて嬉しかったよ」
だがそんな俺に、ありがとう、と三枝は笑いかけてくれた。夕日に照らされたその表情は、儚げで、とても綺麗に思えた。
ずどん、と心臓を撃ち抜かれた感じがした。我ながらなんてチョロい。
「いや、俺は自分から──」
立候補したわけじゃない。大輔に嵌められただけだ。
「ん?」
「ああ、いや……なんでもない」
が、それは黙った。卑怯だが、三枝の笑顔を見たらそれでもいいと思った。
「あのさ、内田くん」
なんとなく、いい雰囲気だ、なんてことを勝手に考えたとき。三枝は不意に口を開いた。どことなくかしこまった様子で俺の方を向いている。
「なんだ?」と答えると、三枝はその先の言葉を言い淀んだ。気まずそうに目を伏せて、迷っている様子だった。
「……三枝?」
「あっ、えっと、ごめん。その……」
俺に声をかけられると、びく、と驚いた様子を見せた。らしくない三枝に、俺の頭には疑問符が浮かぶ。
「その、さ。内田くん」
だがやがて、再び俺に視線を戻した。思わずちょっと身構えてしまう。
なんか告白みたいだな、なんてのんきなことを考えてしまう。だが、そんな俺の考えとは裏腹に、三枝から放たれた言葉は予想外のものだった。
「見てた、よね」
その時、俺はどんな顔をしたのか。驚いたのか、ぴくりとも表情を変えなかったのか。
ただ、どちらにせよ、それで俺の頭が一瞬白紙になったのは確かだった。
「見た、って、何を……」
まだ機能が回復しきらない頭が、勝手に口を開かせた。本当は何のことかわかってるくせに。
「……屋上」
それで決まりだった。やはりあの時、三枝の視線が俺を向いたのは気のせいじゃなかった。
同時に、あの光景が夢や空想なんかではないことだと理解させられた。三枝が、男と淫らなことをしていたことを。
「その、ごめん。三枝が屋上行くなんて珍しいなって思って、つい」
「ううん、責めてるわけじゃないの。謝らないで」
不釣り合いに明るい声で答える三枝の顔を俺は見られなかった。憧れていた三枝が、もう誰かのものになっていたことが、ひどくショックだったから。
「いやあ、それにしても意外だったな。三枝、もう彼氏いるなんてさ」
暗い気持ちを無理やり振り払おうと、俺はそんなことを口走った。はは、と不自然な笑い声をあげた俺はひどく滑稽だっただろう。
「えっと……彼氏じゃないの、あれ」
「え?」
思っていたのと違う答えに、思わず顔を上げる。三枝は気まずそうに目を伏せていた。
「じゃあ、どういう……」
「お兄ちゃん、なんだ。私の」
ぽつりと呟いた三枝に、俺は何も言えなかった。
三枝に兄がいるという話は聞いたことがあった。会ったことも見たこともないが、サッカー部のエースだという噂を小耳にはさんだことがある。
だが、まさか三枝とそういう関係だなんて、夢にも思わなかった。
「あはは……ヘン、だよね」
自嘲するように三枝は笑った。どこか痛ましいその表情に、俺はなんと答えればいいかわからない。
「いや、その……まぁとにかく、学校でああいうことはやめたほうがいいんじゃねえか」
苦し紛れにそう口にした。
「そう、だよね。私もやめたほうがいいって思うんだけどさ……」
「え……?」
違和感のあるその反応に、俺は首を傾げる。それじゃ、まるで──
「あの、内田くん。お願いがあるんだけど」
だが、俺の思考は三枝の言葉で中断された。
「誰にも言わないでほしいの。屋上で見たこと」
切実な表情で、三枝はそう口にした。ぎゅ、と俺の手を両手で握り、お願い、と。
その気持ちは、他人である俺にも十分理解できた。これが学校側に知られたら大問題だろう。退学なんてのもありえない話ではない。
「口止め料も、ちゃんと払うから」
当然のようにそんなことを三枝は言った。
「え、いや金なんていらねえよ。そんもん払ってもらわなくたって──」
「お金じゃ、ないよ」
「え?」
完全に金銭のことだと思った。じゃあ何だというのか。
「金じゃないなら、なんだよ」
すると三枝は、俺の手を少しだけ強く握って答えた。
「──私の体。君のこと気持ちよくしてあげるのが、口止め料の代わり」
三枝は、目を伏せて俺から視線を外してそう言った。それが、気まずさなのか、恥ずかしさなのか、俺にはわからなかった。
「な……三枝、何言って──」
「男の子ならそういうこと、興味あるでしょ? ……イヤ、かな」
どくん、と一際強く心臓が鳴った。
それと同時に意識してしまう、三枝の体。懇願するように握られたままの両手は温かく、肌触りが心地いい。
さらりとした黒髪からは、シャンプーのいい匂いが漂ってくる。そして、半袖のブラウスに包まれた膨らみのずっしりとした肉感。
そんな魅力的なカラダが目の前にある。
「イヤじゃ、ない、けど……」
その肢体に興味がないわけない。それを、三枝自身が差し出すと言っているのだ。ただ遠くから憧憬の目で見ているだけだった三枝が。
思春期真っ盛りの俺が、そんな誘惑に打ち勝てるはずなどなかった。期待からか、俺の股間には血液が集まり始めていた。
「じゃあ、シてあげるね……下、脱がしてあげる」
俺のその期待を感じ取ったのか、三枝はすぐに俺の制服のベルトに手をかけた。それをカチャカチャと手際よく外していく。
明らかに慣れている。それが少しだけ悲しかったが、興奮がそれすらかき消す。
「腰、ちょっとだけ上げてもらえる?」
言われるがまま椅子から腰を軽く浮かすと、するりと下着ごと下ろされた。
外気にさらされる俺の陰茎。すでに半勃起のそれを見て、三枝は「わ」と小さく漏らした。
「おっきいんだね──内田くんのおちんぽ……」
惚けた瞳で俺のものを見つめながら、三枝はそう口にした。
清楚な三枝のイメージに似つかわしくない、いやらしい言葉遣い。だけどそれが興奮する。
「あの、三枝……さすがにそんなに見られると恥ずいんだが……」
「えっ? あっ、ご、ごめんね!」
俺に言われて、三枝は恥ずかしそうに頬を赤らめた。初めて見る可愛らしい反応に、ドキリとしてしまう。
「じゃあその、手でするね」
照れくさそうに笑って、三枝はそう言った。それと同時に、俺の肉棒にそっと三枝の片手が触れた。
そうして、きゅ、と軽く竿を掴まれる。自分でオナニーするときよりも優しい、ほんの僅かな刺激。
だけど、たったそれだけで全身に軽い電流が走った。
「っ……三枝……」
「ん……あっついね、興奮してくれてるのかな」
くす、と三枝は笑みをこぼした。だが俺は、三枝の手に包まれた自分の肉棒から視線が外せなかった。
つい一時間ほど前までろくに話したこともなかった三枝が、今は俺の性器を包んでいる。信じがたい光景に、軽く眩暈すら覚えてしまう。
「動かすよ」
そんな俺の頭の中とは無関係に、三枝はゆっくりとその手を動かし始めた。
しゅっ、しゅっ、と三枝の手が上下する。単純な動き。
それなのに、快楽神経を直接撫でられたみたいな刺激が走った。自分以外の手に擦られるだけでこんなに気持ちがいいなんて俺は知らなかった。
滑らかな五指の一つ一つが何度も往復して、無理矢理に快楽を引き出される。軽い締め付けまであるのだから余計にだ。
「あ……あは、すごいね。おちんぽ、もうがちがちに勃起しちゃった──気持ちいい?」
「ああ……気持ちいい。三枝、慣れてるんだな」
「え? あ、うん……それなりには」
俺に問われた三枝は、明らかに表情を暗くしてそう答えた。だがすぐにその顔に笑顔を戻して続けた。
「あ……そうだ! オカズとか、欲しいよね」
「いや、それは……まあ、欲しくないといえば噓になるけど」
そうして「じゃあ」と区切って三枝は口を開いた。
「おっぱい、触っていいよ」
「え──」
俺の手を扱く手は止めないまま、優しく微笑んでそう言った。何気ない口調なのに、その言葉はひどく誘惑的だった。
「いい、のか……?」
「いいよ。男の子はみんなおっぱい、好きなんだよね?」
どうぞ、と三枝は軽く体を揺らして見せた。ぶるん、とたわわなその胸が波打つように揺れる。
その誘惑に抗うことなんて、誰ができるだろうか。俺は、片手でそっとその膨らみに触れた。
「ん……いいよ、遠慮しないで。もっと好きに揉んで──内田くん」
躊躇うことなくその体を差し出してくる三枝。歯止めがないから、俺も素直に従ってしまう。
むにゅん、と力を入れて指を沈み込ませる。ブラウスとブラジャーが間にあるにも関わらず、絹のような柔らかさが直接伝わってくる。
「んっ、ぁ……あっ……」
その俺の刺激に、三枝の小さな声が混ざる。感じてくれているのだろうか。そう考えると、また興奮が一段階上がる。
気づくと、三枝の手の動きは少しだけ速くなっていた。それに、単純な上下運動でなく、軽く手をひねったりと変化がつけられる。
「ん……ん、ぁ──また、おっきくなって……ンっ、ん、おっぱい、興奮する?」
「ああ、すごく。三枝、胸大きいよな……触ってるだけでめちゃくちゃ気持ちいい」
「うん……そうだね。私、スタイルだけはちょっとだけ自信あるんだ」
えへへ、と頬を染めて笑った。ちょっとだけ、なんてレベルではないと思うが。謙虚な性格なんだろう。
「あ、ちょっと手、止めるね」
三枝はふと何かを思いついたように手を離した。そして、その手を自らの口元に持っていった。
「ん、ぇ……れろ──っ」
舌を軽く突き出し、そこから唾液が垂れていく。それを受け止める三枝の手。
そうやって軽く濡らすと、また俺のものを包んだ。
「ふふ……濡らすと気持ちいんだよ」
そのまま再び手を動かされる。だけど今度はさっきの優しい快楽とは全く違った。
にちゃ、にちゃ、と淫らな水音が響き、滑らかに三枝の手が生殖器を往復する。その一回一回が、陰嚢の精液すらも刺激する。
それが三枝の唾液だと思うと、さらに興奮した。そして、俺の精液でさらにその手をどろどろにしたいと、すぐに考えてしまう。
「っ……三枝──もう少し、速くしてもらっても」
「ん、いいよ──これくらい?」
にちゅにちゅと、さらに早く扱かれる。射精の気配がすぐに顔を出し、ぐつぐつと陰嚢が上がってきてしまう。
我慢できず、両手で三枝の胸を鷲掴みにした。
「あっ、ん……ぁ、アん……ん、ぁ……おっぱい、ぁ、きもちぃ……」
押し殺した声が三枝の口から漏れる。小さな声ではあったが、それは紛れもなく感じてくれている声だった。
そのまま好きに揉みしだく。目いっぱいに指を広げ、それでもすべて覆えない果実を思うがままに堪能する。
それに呼応するかのように、三枝の手も段々速くなっていく。興奮を高める優しい刺激ではなく、白い欲望を搾り取るための手淫。
「んっ、あ──おちんぽ、びくびくして……っん、ぁん……精液、出ちゃいそう?」
「く、……ぅ、ああ……もうすぐ、いきそうだ」
俺がそう口にすると、三枝はどこか嬉しそうに微笑んだ。
「いいよ……ぁ、んあっ、我慢しないで出して──全部、私の手で受け止めるから……」
そしてとどめを刺すように、ごしごしと強く擦られる。ぎゅう、と力強くにぎられて、その滑らかな指に搾り取られる。
「三枝っ、出る……っ!」
「うん、射精して──っ、ひゃっ!」
どびゅん、と我慢できなくなったものが溢れ出た。三枝は急いでもう片方の手で亀頭を覆った。
そこへ何度も精液を撃ち続ける。どぶん、どぶん、と壊れたポンプのように精液が飛び出していく。
「わっ……あっ、あ……すご──精液、こんなにたくさん……」
射精中も三枝は性器への刺激を続けてくれる。必要以上に強くせず、優しく、射精を促すような上下運動。
それに操られるように白濁を吐き出す。どろどろのもので三枝の綺麗な手を汚していくその行為は、犯罪的なほどに興奮した。
「あ……射精、終わったかな……?」
熱い快楽にぼうっとしていると、三枝がそう口を開いた。
ゆっくりと俺のものから手を離すと、白濁の糸が何本も引いていた。
「わぁ……すごいね。内田くん、溜まってたの?」
汚れてしまった手を嫌がることもなく、三枝はそう言って顔を綻ばせた。
「いや、そういうわけじゃないけど……その、俺、性欲強くてさ。一日に二、三回抜いてるんだよ」
しまった。頭が働かないせいで余計なことまで言ってしまった。さすがに気持ち悪いだろう。
が、三枝は笑顔を崩さなかった。
「本当? すごいじゃない。ゼツリン、って言うんだっけ?」
楽しそうに言う三枝に、俺もなんだか笑ってしまう。
「じゃあ、もう一発抜いてあげるね。まだコレ、元気そうだし」
「えっ……あ、いやさすがにそれは」
白濁でどろどろの肉棒を撫でながら三枝は言った。その言葉通り、まだ固さを主張するように天井を向いている。
「いいの。勃起したまま帰るのツラいでしょ?」
「まあ、確かにそうだけどさ──って、あ、三枝!」
俺が迷っていると、三枝はおもむろに顔を俺の陰茎に近づけた。
「ん……精子のにおい、すごい──くらくらしちゃう」
くんくん、とその匂いを嗅ぎながら、うっとりとした声で三枝は言った。その煽情的な様子に、俺もまた情欲が昂ってしまう。
「さっきと同じじゃ飽きちゃうよね? 今度は口でしてあげるね」
そのまま椅子から降りて、俺の股間の前にしゃがみこんだ。そして、俺が何か言う前に大きく口を開けて、ぱくりと亀頭を口に含んだ。
びり、と痺れるような感覚。出したばかりで敏感だから、そのわずかな刺激でも体が震えてしまう。
「んっ、……れろ、ンっ、ふ──」
ソレを口に含んだまま、三枝はぺろり、と舌を這わせた。軽い挨拶のように、つう、と柔らかく濡れたものが先端を伝う。だが、そんな優しい愛撫なのに、背筋にぞくぞくとした快感が走る。
初めて知る、女の子の舌と唇の感触。それを、男根で味わっているのだからたまらない。
「んっ、……ぁむ、ン、ちゅっ……ふふっ、気持ちいい?」
楽しそうに目を細めて三枝は言った。だが、彼女のフェラチオでいっぱいいっぱいの俺は、こく、と頷くのが精一杯だった。
だって、こんな光景信じられない。枝垂れる髪を軽くかきあげて、勃起した俺の肉棒を咥えこんでいる。
夢ですらこんなの見たことない。現実であることを確かめるように、俺は三枝の髪に軽く触れた。
「ん、ン──ぶ……んぅ、ん……っ」
すると、三枝はずぶぶ、とより奥へと咥えこんだ。
ぷにぷにとした唇を擦りながらの挿入。そして、狭い喉奥に、ぱんぱんに膨らんだ亀頭が受け止められる。
性器全体を包む熱い口腔の感触に、危うく射精するところだった。いや、今だって気を抜いたら暴発してしまうだろう。
「んっ、ふ……んぶっ、んっ、ンっ──ぢゅっ……」
だというのに、三枝はゆっくりと顔を前後に動かし始めた。まるで性交を真似るように、じゅぶ、じゅぶ、と抜き差しが繰り返される。
三枝の小さな口に、固く勃起したものが出し入れされている。どの瞬間を切り取っても、いやらしくて仕方ないその光景だけで精液が昇ってくる。
「三枝っ……待て、待ってくれ……! そんなにしたら、またすぐに──」
「んはっ──ん、出ちゃう? いいよ、ほら……んぁ──」
俺の言葉に、三枝は性器から口を離した。だが、今度は見せつけるように口を大きく開いて見せた。
唾液と、俺の我慢汁で濡れた口内。どろどろの舌は、むわりとした熱気が漂ってくるようだった。
そのまま、三枝は続けた。
「ココ──射精していいよ」
そして、片手で竿を握るとごしごしと扱きはじめた。舌を軽く突き出し、その上に亀頭を持ってこられる。
舌で精液を受け止めてあげる、と言われているよう。自然とその瞬間を想像してしまう。
熱い舌へ、どびゅどびゅと精液を吐き出す瞬間を。
「あ……おちんぽ膨らんで──もう精子出る? いいよ、我慢しないで射精して──?」
俺の射精欲を見透かして、三枝は甘やかすような口ぶりでそう言った。それでもう無理だった。
せき止めていた堤防を突き破り、一気に白濁が昇ってくる。
「三枝っ、イク、でる……っ!」
「ん、ぁ──んっ!!」
どぷん、と亀頭から白濁の塊が溢れ出る。それが一度のみならず、二度三度と絶え間なく続く。
その熱い欲望を、三枝は嫌な顔一つせずに受け止めてくれた。びゅっ、びゅっ、と吐き出されるソレを、舌と口で飲み込んでいく。
その光景は信じられないほど淫らで、刺激的だった。
「んっ……ん、ふぁ──ん、くっ……すご、いっぱい……」
射精が終わったあと、三枝はゆっくりと俺の性器から口を離した。だが、まだ飲み込み切れないようで、はしたなく口が開かれている。
白濁と唾液でいっぱいになった三枝の口内に、ぞくりとしてしまう。俺の精液で、あの三枝の口を満たしているなんて。
「ん、んくっ……ん──あ……内田くんの、すっごく濃いね──」
それを時間をかけて飲み下して、そう口にした。恥ずかしそうな笑顔を、口の端から漏れた白濁が淫らに彩っていた。
「三枝……その、悪い。こんなこと、させちまって……」
やっと冷静さを取り戻してきた俺は、三枝の顔を直視できずにそう言葉にした。
「ううん……いいの。あんなの見せちゃった私が悪いんだからさ」
だけど、どこまでも三枝は優しかった。今はそれが、ざくり、と胸を突き刺すようだった。
「えっと、内田くん……じゃあ、今日見たことは全部秘密にして、くれる?」
「ああ、それはもちろん。誰にも言わない」
彼女にこんなことまでさせて、言いふらすなんてことは誓ってしない。その思いを込めるように、彼女をまっすぐに見て言った。
「うん、ありがとう」
立ち上がり、やや乱れた衣服をただしながらそう口にした。夕日に照らされたその笑顔は、どこか儚げに見えた。
そのまま三枝は荷物をまとめようと背を向けた。
「あ、あと」
だが、何かを思い出したように振り向いた。
「君とシたことも、ヒミツだよ」
どこか照れくさそうに頬を朱に染めて、三枝は微笑んだ。