sweet nightmare

ㅤ深夜、自室で眠っていると、部屋に近づく足音で目が覚めた。時計に目をやると午前二時。大して眠ってもいない。だが、足音が桜のものだと気付き、そんな事はどうでもよくなった。
「桜」
ㅤ声をかけると遠慮がちに襖を開け、桜が入ってきた。
「あの……先輩……」
ㅤ桜は言いにくそうに目を伏せて腕を握りしめている。
ㅤ彼女が今ここに来る理由は一つ。渇いた体を癒すため。刻印虫によって欠乏した魔力を、俺の血という形で補給するためだ。
「ああ。わかってる。ちょっと待ってろ」
ㅤ桜を布団の上に座るように促した後、立ち上がって机の中を探る。確かカッターナイフがあったはずだ。取り出したそれの刃を出し、自分の唇に押し当てる。ほんの少し力を入れて傷を付けた。あまり勢いはないが、しっかりと出血している。
ㅤ──別に、唇である必要はない。血を飲ませるだけなら腕や手で充分だ。けれども俺がそうしたのは、その方が桜と触れ合えると思ったからだ。もっと深く、桜と触れたかったから。
「桜。いいぞ」
ㅤ桜の前に座ってそう言うと、彼女は少し驚いた後、
「あ……先輩、その……いいんですか……?」
ㅤそう、おぼつかない口調で尋ねてきた。桜は俺がいきなりこんなことをしようなんて言い出したことに戸惑っている様子だ。
ㅤそれは無理もないことだった。俺たちはそういう仲になってから日が浅いから、当然キスなんてしていない。だから、俺にも躊躇があった。
ㅤファーストキスをこういう形でしていいのかと。全てが終わった後にするのが正しいのではないかと。でも、今こういう時だからこそしたかった。この先、俺も桜もどうなるかわからない。もちろん、必ず桜を守ると誓ってはいる。それでも、どうしても先行きの見えないことへの不安は拭えない。
ㅤそんな不安を打ち消すために、桜を深く感じていたいと、そう思った。
「ああ、構わない。桜はイヤか?」
「いえ……そんな、ことは──」
ㅤ突然、桜の言葉が途切れた。
「桜……?」
ㅤ桜の顔を見ると、どこか虚ろな目をしていた。そしてその視線は俺の唇に吸い寄せられている。
「せんぱい……」
ㅤそのまま、桜はゆっくりと俺に近づいてくる。四つん這いになって、少しずつ俺との距離を詰めていく。それは己の本能に従う獣のようでありながら、妖麗で優美だ。それによって一瞬で変化した部屋の空気に、俺はただ黙って桜を待つことしかできない。
「───」
ㅤもう、桜の顔は俺の目の前にあった。その手が、頬に触れる。そして、桜の顔がだんだんと近づいてきて、唇と唇の間の距離が短くなっていく。
ㅤそこで我慢が効かなくなって、桜をその身体ごと抱き寄せた。
「ん……」
ㅤそれと同時に、唇が重なった。深くはない、互いに触れているだけの口づけ。そこからこくりこくりと喉を鳴らして血を吸われる。たったそれだけのことなのに、すぐにあの快感が襲ってきた。傷の痛みなんかすぐに消えた。それほどに気持ちがよかった。
「ん……んぅ……」
ㅤ初めて触れた桜の唇。温かく、適度に潤ったそれは、俺の唇を溶かしてしまいかねない程の触感だった。
ㅤ傷口が触れているから、ということもあるのだろう。本来、痛みを感じるはずのそれは、桜の唇の感覚により、快感をより鋭敏に感じとるものへと変化している。
「んっ、ん……」
ㅤただ吸っているだけの桜だったが、ふと舌で傷口を舐めてきた。そのせいで頭の中がくらりと揺れる。視界が歪んで、思わず目を閉じてしまう。でもそうやって五感を一つ消したせいで、桜の感触がより強く伝わってきた。
ㅤ柔らかい唇、濃い桜の香り、時折漏れる小さな声。その全てが俺の理性を壊していく。
「ん……せんぱ……」
ㅤ少しずつ唇の形がわからなくなる。溶け出したチョコレートのように、どこまでが自分のもので、どこからが桜のものなのか。まるで溶け合っているかのような感覚。
ㅤそれに当てられて、体勢を崩してしまった。
「あ……」
ㅤそのまま前のめりに倒れてしまい、桜を押し倒してしまう。思わずついた左手から痛みが走る。でも今は離れてしまった唇に気をとられて、痛みなんか気にしなかった。
「は……あ……せんぱい……」
ㅤ血と混ざり合った唾液が糸を引いている。それが伸びきらない内に、自分から唇を押し当てた。
「んっ……」
ㅤほんの少しの声が漏れた後、桜は再び血を吸い始めた。互いの口から唾液が漏れている事を気にもとめず、ひたすら気持ちのいいその行為に没頭する。
ㅤ唇からとはいえ、ただ血を分けているだけだ。それなのにどこかいけないコトをしているような気持ちになる。
ㅤ少しの背徳感と陶酔感、そして沸き上がる支配欲。桜をもっと抱き締めたい。そう。桜を壊してしまうほどに。
「ん、く……せんぱい……おいし……」
ㅤ俺が押し倒すような姿勢にも関わらず、桜は抵抗せずに俺を受け入れて、俺の血を飲んでいる。
ㅤ時間の感覚が曖昧だ。この行為を始めてからどれくらいたったのか。一分か、十分か。あるいはそれ以上か。
ㅤでもそんなことは関係ない。いつまでだってこうしていたかった。
「ん、う……」
ㅤ快感は唇だけでなく、全身の感覚までもぼやけさせていく。それは異常だ。でもそれがもっと欲しい。だからより強く唇を押し付ける。桜もそれに応えるように、口を軽く開けて俺の唇に吸い付く。
ㅤ魔力供給と呼べたその行為は、いつの間にか唇同士の愛撫へと少しずつ変わっていく。傷口からの血は既に止まっていた。でも俺も桜も唇を離さない。もう、離せなかった。
ㅤ唇はおろか、頭の中までもおかしくなっていた。こんな姿勢で桜とキスしているんだ。まともでいられる訳がない。このままもっと。もっと桜を味わっていたい。
ㅤ先に足りないと言ってきたのは桜の方だったのに、今は俺の方が欲しがっている。
「ん……ふ……せん、ぱ……い」
ㅤお互いに、より深く唇を求めるようになっていた。俺が強く押し付ける度に、桜はそれを受け入れて、甘噛みするように吸い付く。
ㅤ甘く、溶けるようなキスだった。桜はもう血を吸ってはいないが、快感は変わらず伝わってくる。だから、理性なんてほとんど残っていなかった。桜へのほんの少しの気遣いと、後は欲望だけ。その欲望のまま、その口内へ舌を侵入させる。
「んっ、んん……っ……!」
ㅤ桜の身体がビクリと反応する。でも俺を拒んだりはしなかった。それどころか、もっとしてほしいと言わんばかりに口を開けてくれた。そんな桜に甘えて、桜の舌に自分のを絡ませ、桜の感触を感じる。
ㅤざらついた舌、熱く湿った口内、甘い唾液。これが桜なんだと確かめるように、舌でその口を犯す。
「んっ……んちゅ……ぅ……せん、ぱ……」
ㅤそうやって口内を貪っていると、桜も舌を動かして、俺の口へ互いの唾液で濡れたその舌を侵入させてきた。そして、さっき俺がしたように俺の口を犯し始める。少し驚いたが、それ以上に嬉しかった。さっきまで俺ばっかり桜を強く求めていたから。だから桜もこんな風に求めてくれるのが嬉しい。
ㅤそしてその嬉しさはすぐに快感へと変わっていく。舌を犯し合う、淫らな快感へ。それは既に、性的な意味を持った接吻だった。
ㅤただの粘膜同士の接触なのに、どうしてこんなに頭をおかしくする。どうして、頭の中が桜だけになっていく。でもそんな疑問はどうでもいいことだ。今は桜だけ。桜との秘め事だけ考えていればいい。
「はっ……んぅ……ちゅう……ふ……っ……!ㅤふぇん、ひゃっ……んちゅ……う……!」
ㅤより激しく、情熱的になっていく行為。互いの舌は、まるで別の生き物のように互いの口内を這いまわる。それが運んでくる快楽は、さっきとは比べものにならなかった。二枚の舌が絡まり合う度に、ぞくぞくとした感覚が背中に走り、もっとこうしていたくなる。
ㅤもう歯止めなんてきかない。頭の中のリミッターは、とうの昔に外されてしまった。
ㅤ触れ合う唇、絡まる舌、擦れる身体、荒い吐息。桜の感覚全てが欲望を加速させる。これだけじゃ、キスだけじゃ足りない。今抱き締めているその身体まで、全て感じたい。
「は……っ、あ……せんぱい……」
ㅤ唇を離して舌を引き抜く。互いの舌の間を混ざり合った唾液が糸を引いている。それが月明かりでてらついていやらしい。
「激しい、ですね……先輩……」
ㅤ肩で息をしながら、おぼろげな口調で言う桜。その名残惜しげな目が潤んでいた。彼女の言うとおり、少し激しくし過ぎてしまったと反省する。
「わ、悪い、桜……つい、止まらなくなっちまって……」
「いえ、私、とっても嬉しかったです。……それに、私も先輩と同じで夢中になっちゃいました」
ㅤ恥ずかしそうにはにかむ桜に、俺のほうが照れてしまって、何も言えなくなってしまう。このまま、キスよりも先に進もうと思っていたのに、肝心の言葉が出てこない。
ㅤいくら桜を欲していても、桜の気持ちを無視して何も言わすにコトに及ぼうとするなんて論外なのに。言葉を探しても、上手い具合のものが見つからない。
「あ……えっと、ずっと押し倒したままじゃ、悪いよな」
ㅤ挙げ句の果てに、自分の気持ちと正反対の行動をとろうとする始末。
ㅤだが、密着させていた身体を離そうとしたところで、桜の両腕が俺の首のうしろに回された。
「桜……?」
「待って、下さい……先輩……まだ離れたくないです……」
ㅤどくんと心臓が跳ねる。桜の表情は、確かな理性を保ってはいるが、酔ったような怪しい色を孕んでいる。
ㅤそれは俺が見たことのない、蠱惑的な色気が感じられた。ただでさえさっきのキスで理性を保つのが難しくなっているのに、そんな表情で「離れたくない」なんて言われたら、自分を抑えられるかどうか危うくなってしまう。
「先輩……私、もっと欲しいです……先輩だって、同じでしょう……?」
ㅤその、誘惑に近い言葉に思考が止まる。視線は桜の目に向けたまま、身体が硬直する。
「さ……さく、ら……」
「私だって、とっくに歯止めがきかなくなってるんです。……それと、その……先輩も、興奮してるん、ですよね……?」
ㅤ見透かされてる。あんなに激しくキスをしていたのだから、そんなことは桜には筒抜けだろう。でも、それさえ理解できないほどに、俺の頭は桜に魅入られていた。
「え、なんで……桜……」
「だって……先輩のが、その……」
「え……」
ㅤその言葉でようやく我に帰った。生殖器は隠しようもないほどに反応していた。当然、密着している桜にはずっとわかっていたのだろう。
「ごご、ごめん、桜……!ㅤ夢中になってたから全然気付かなくて──!」
ㅤ慌てて離れようとするが、それを桜の両腕が拒否する。俺を逃がすまいとぎっちりと捕らえられていて身動きがとれない。無理矢理振りほどくことは容易いが、俺にはそんなことはできなかった。
「先輩……先輩はイヤですか……?ㅤこのまま私とするのは……」
ㅤそのまま桜は真っ直ぐに俺を見つめて問いかける。それは消え入りそうな頼りない声だった。
ㅤそれがあまりにも痛ましくて、慌てて否定する。
「そんな訳ない。好きな女の子と──桜とするのがイヤなんて、そんなはずがない。……でも、桜はいいのか?ㅤこんな、流されるみたいに……」
ㅤそれが一番不安だった。桜はただ俺に合わせてくれているのかもしれないと。
ㅤそうだとしたら桜の気持ちを無視することになってしまう。そんなことはあってはならない。
「いいんですよ、先輩」
ㅤしかし、桜はそんな俺の懸念なんて微塵も感じさせないような笑顔で言った。
「私は先輩が好きです。……先輩も、私を好きと言ってくれました。私はそれだけでも、とっても嬉しかったです。──でもできるなら、先輩がいいって言ってくれるなら……それを、もっと──」
ㅤ確かめ合いたい、と。そう言うその顔に、俺の心配は杞憂だったのだとすぐに確信する。
「──そっか。そんな風に思ってくれてたんだな。そんなことにも気付けなくて、ごめん」
「いいえ。そんなこと、ないです」
ㅤそう言葉を交わした後、どちらからともなく口付けをした。それはお互いが伝え合った気持ちを確かめるような優しい接吻だった。
ㅤ──そうやって、俺たちの間の遠慮や躊躇は全て消え去った。唇を離した後、自分の着ていたシャツを脱ぎ捨てて、さっきと同じように桜の上に覆い被さった。
「桜……服、脱がすけど、いいか……?」
「はい……どうぞ、先輩……」
ㅤ多少の躊躇いと共に、上着のボタンを外した。そして、震えそうになる手を抑えながら、その下の服をそっとめくり上げて、その素肌をさらけ出した。
「桜……」
ㅤその美しさに思わず見とれた。汚れなんて当然なくて、触れることを躊躇させる程のきめ細かな肌。それは部屋に差し込む薄い月明かりによく映える。
ㅤさらに、一枚の下着に包まれた双丘。まだ全て見えていないのに、それは俺の視線を釘付けにする。桜の胸は普通よりも大きいから余計だろうか。いや、好きな女の子のだったら大きさなんか関係なしにこうなってしまう。
「あ、あの……先輩……見てばっかりじゃ、恥ずかしいです……」
ㅤその桜の声で我に帰った。桜は恥じらうように頬を染めた、艶めかしい表情をしている。何をやってるんだ、俺は。桜にそんなことを言わせるなんてどうかしてる。
「あ……悪い、桜……キレイだから、つい……」
「せ、先輩……そんな……」
ㅤ照れたように顔を伏せる桜に、また見とれてしまいそうになるが、それじゃあいつまでたってもコトが進まない。
ㅤ下着の上から両の乳房を包む。一枚の布を隔てても、その柔らかい感触はしっかりと伝わってきて、俺の情欲をかきたててくる。その胸を揉みしだくと、双丘は容易くその形を歪める。
「ぁ……んっ……」
ㅤ小さな声が漏れる。そこには僅かだが、確かな悦楽の色がこもっていた。そのままさらに力を入れる。掌で全体を覆ったり、両の胸を内側に寄せるようにしたりして、その乳房を揉む。
ㅤそうやって刺激を与える度に、桜は違った反応をしてくれる。それがとても可愛らしくて、もっと悦ばせたくなる。
「や……あ、せんぱ……い……」
ㅤその気持ちのまま、下着を上にずらしてその全てを外気に晒す。二つの丘の頂点に立つ、薄い桃色の乳首までもが露にされた。それを何の躊躇いもなく触る。掌で胸全体を覆いながら、その突起を指で転がすように弄ぶ。
「あっ……は、ん……っ、ひぁ……っ……」
ㅤより強くなる桜の反応。それは快感に染まった声だった。桜は与えられる快楽に身を捩らせながらも、俺にその身体を委ねてくれている。
ㅤそんな桜を深く愛するように愛撫する。桜の反応を見ながら、感じる場所を探っていく。桜は俺の愛撫に、甘い声を漏らしながら快楽を拒まずに享受している。それは淫らでありながらもとても綺麗だ。
「ふぁ……んっ……せんぱい……っ、あ、ん……はぁっ……きもち、いい……」
ㅤそんな桜をもっと見たい。もっと桜に気持ちよくなって欲しかった。
ㅤその素肌にキスを落とす。桜は一瞬身体を震わせたが、すぐに力が抜けた。手は桜の胸に這わせたまま、その身体に何度も口付けをする。最初は軽く、そこから少しずつ強くしていく。触れるだけの接触から、ちゅう、と吸うように幾度も口付ける。
ㅤその、軽く勃起した乳首までも。
「ひあっ……!ㅤふぁっ、は……んっ……!」
ㅤ一際強く跳ねる桜の身体。そのまま乳首を舌で舐めて愛撫する。桜の反応はさっきとは比べものにならない程のものだった。ビクン、と何度も身体を震わせて、快楽に浸っている。
ㅤそれがとても嬉しい。俺の愛撫でこんなにも気持ちよくなってくれていることが。先ほど激しく交わしていたキスのように、乳首を口に含んで舌で舐め回す。
「あっ、ん、んっ……!ㅤは、ん……っ、ふあ……っ、は、せん、ぱい……っ……!ㅤそれ、いい、です……!」
ㅤ桜はそれが気に入ったようだった。淫らな嬌声をあげながら、身体をくねらせて反応する。さらに、桜は無意識でしているのかもしれないが、乳首を俺の口に押し当てるようにその身体を動かしていた。そうやってますます桜の快感が高まっていく。それは俺にもはっきりとわかることだった。
ㅤそしてそんな桜を見ているうちに、嗜虐心のようなものが俺の中に芽生え始めた。もっと桜を乱れさせたい。狂わせてしまいたい、と。もう、その欲望を遮るものなどありはしない。
ㅤ口に含んだ乳首を強く吸い上げる。遠慮なんかなかった。ただ、桜が欲しかった。
「ふああっ!ㅤせんぱいっ……それ、はっ……!ㅤだめ……っ……あぁ……っ、んあっ、はあ……っ……!」
ㅤそう言いつつも、桜は嫌がる素振りを見せない。それどころか、その両腕で俺を抱き締めて、強く密着させてくる。桜がそうやっている間も、俺は桜への愛撫を止めない。きゅうう、と強く吸うのを続けた後、焦らすように舌先だけでもどかしい刺激を与える。それを何度も繰り返して桜の反応と感触を楽しんだ。
ㅤそして、俺の頭は未だ触れていない場所のコトを考え始める。桜の秘部。そこを愛撫して、桜を何も考えられなくなるほどに狂わせたいと思った。
「桜……下も……」
ㅤ胸から口を離して桜に確認する。桜の一番大事な場所まで、触れていいのかを。
ㅤしかし桜はすぐには答えずに、恥ずかしげに視線を泳がせる。そして、意を決したように俺を見て、頬を染めて言った。
「あの……さっきから私だけ気持ちよくしてもらってるから……今度は私もしてあげたい、です……」
ㅤそれは、一緒にということだろうか。その提案はとっても嬉しいのだが、どうするのがいいだろう。
ㅤこのままの体勢では桜が少しやりにくいだろうし、いっそのこと桜に俺の上に乗ってもらって──
「あ……桜……っ……」
ㅤそうやって考えてる内に桜の指が俺の股間に触れていた。
「ん……先輩の、こんなに……」
ㅤ服の上からとはいえ、桜とキスをしていたときから既に勃起していたそれを触られ、背中にぞくぞくとした電流が走る。どんな体勢がいいかとか、そんな事はその快感で吹っ飛んでしまった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ、桜……!ㅤ……えっと、服、全部脱ぐから……」
「あ……そ、そうですよね。ごめんなさい、私……」
ㅤ真っ赤になった顔を手で覆う桜に、俺も同じように赤面してしまう。それを感づかれる前に、桜から離れて自分の服を脱ぐ。
「桜、全部脱ぎ終わっ、た──」
ㅤ振り向くと、そこには俺と同じように一糸纏わぬ姿になった桜が座っていた。完全な裸になったその姿に、俺は顔を背けるでも、押し倒すでもなく、ただ桜を見つめてしまった。
「桜……すごく、綺麗だ……」
ㅤその言葉は自然と口から零れていた。それは、俺が本当に桜を美しいと思ったからだろう。
「あ……先輩……う、嬉しいです……」
ㅤ先程よりもさらに顔を赤くする桜。それが堪らなくいとおしくて、抱き寄せてキスをした。桜に抵抗はなく、俺の頬に両手をそえ、彼女のほうからも深く唇を重ねてくれた。
ㅤそのまましばらく唇を求め合った。先のような貪るようなものではなく、ただ互いに触れ合いたいが為のもの。
ㅤ口付けを交わしたまま、俺たちは布団の上に身体を倒した。そしてお互いの手を身体に這わせる。
ㅤ最初は胸から。ゆっくりと、快感を与えすぎないように撫でる。それぐらいがちょうど良かった。俺たちにとっては触れて、触れられているだけで充分すぎるほどだから。
ㅤそして、そこから少しずつ手を下へと下ろしてゆく。本当に、ただ触れているだけに近い刺激なのに、背中にぞくぞくとした感触が走る。この先にある快楽を予想してだろうか。
ㅤでも焦りすぎないように。無闇に焦らす必要もないけれど、官能的な意味を伴わない接触も心地良かったから。
ㅤでも、少しずつ手は下へ下へと動いている。その接触ももうじき終わりだ。
ㅤそして、互いの指先が「そこ」へ触れた。
「ん……あっ……せんぱい……っ……」
「ぅ、あ……っ、さくらっ……」
ㅤそれだけでどうにかなってしまいそうだった。合わせていた唇もすぐに離れ、互いに嬌声を上げた。
ㅤたかが指先なのだから快感なんて僅かだ。そもそも快感と呼べるほどのものかどうかも怪しい。それなのに、俺たちは過剰なほどに反応した。
ㅤきっと互いのものに触れたという事実が、そうまでさせたのだろう。愛しい相手の秘部へ触れ、触れられたことが。
ㅤでも当然、それだけじゃ止まらない。さらに手を下ろして、自由に撫でまわせるほどの場所に到達した。
ㅤそこへ至った瞬間、俺たちの中のなにかが外れた。さっきまでの優しく触れるだけの接触は終わり、快楽を与え合う、いやらしい愛撫が始まった。
ㅤ桜の秘裂に這わせた指に湿った感触が伝わってくる。俺のものが勃起していたように、桜もまた、とっくにそこを反応させていた。それが俺よりも先か後かは知らないが、桜もこうやって興奮してくれていたことが嬉しかった。
ㅤ割れ目をなぞるように優しく触る。そのまま少しの力を入れると、指は容易く桜の中に入っていく。中は表面よりもずっと濡れていて、指を動かすと淫らな水音をたてながらきつく締め付けてくる。
ㅤそれとは反対に、桜の手は優しく俺のものを包み、上下にしごいてくる。指の一本一本がこすれる度に、違った形の快楽がもたらされる。その快楽で、肉棒にさらに血が集まっていく。
「あ……っ、ん……はぁっ……あ……せんぱいの……おっきくなった……」
ㅤ桜からの刺激はそれほど激しいものじゃない。でも桜と互いに愛撫をしていると思うと、快楽は何倍にも膨れ上がった。さっきみたいに、桜を一方的にせめて気持ちよくするのも悪くなかったが、二人で一緒に快楽を共有するのは極上の悦楽だった。
ㅤそのせいで、先端から先走りの汁が漏れ出す。桜はそれを自分の手で肉棒全体に絡ませてきた。それがいやらしい水音をたてる。
ㅤ部屋に響いているのは互いの荒い吐息と、湿った音だけ。それだけだ。でも俺たちの与え合っている快楽は高まっていく一方で、限界も少しずつ近づいてくる。
「は……くっ……さくら……」
「せんぱい……あ……んんっ……は……っ……」
ㅤ熱くなっていく互いの声。このまま続けたらすぐ絶頂に至ってしまう。俺も、桜も。できるならすぐにでもそうなってしまいたい。桜と一緒にイってしまいたい。
ㅤでもまだ。まだ桜と繋がってない。愛撫する手を止めて、桜の中から指を引き抜く。桜も察してくれたようで、俺のものから手を離した。
ㅤ桜は自分から布団の上に仰向けになり、両足を開いて俺を受け入れる準備をしてくれた。そんな桜に導かれるように、その上に身体を重ねた。
「桜……」
「先輩……」
ㅤそのまま、肉棒を桜の花びらにあてがう。先端が入り口に触れてぬちゃりと音をたてる。それだけでもぞっとするほどの快感。
「ん……っ……」
ㅤビクリと震える体。腰を動かして、ゆっくりと挿入していく。お互いに濡れているから、抵抗はほとんどない。
「は……ぁん……せんぱいの……入って、きて、るっ……」
ㅤ亀頭まで飲み込んだ桜の膣は、ぎちぎちとそれを締め付ける。うめき声すら上げられないほどの快楽に、どうしても我慢できなくなって、一思いに全てを挿入してしまった。
「あんっ……!」
ㅤ少しの苦痛が混ざった桜の声。
「あ……桜、痛かった……か?」
ㅤ心配して声をかける。苦しいからといって行ったさっきの行為を後悔した。
ㅤそれでも桜は俺に微笑みかけて言った。
「ん……大丈夫です……それよりも、わたし、先輩とひとつになれて、すごく……すごく、うれしいん、です……」
「桜……」
ㅤ桜はその目に涙を浮かべていた。それが痛みによるものではなく、嬉しさから来るものだと、俺はなんとなく悟った。
ㅤ自惚れているつもりはなく、ただ本当にそう思った。俺だって、桜と同じなんだ。
「ああ。俺も桜とこうなれて、本当に嬉しい。俺が桜を好きで、桜も同じ気持ちだって感じられて、すごく、嬉しいよ」
ㅤ俺も桜と同じように、自分の素直な気持ちを伝えた。
「先輩……嬉しい、嬉しいです……私たち、同じ、なんですね……」
ㅤそうして、互いの身体を抱き締めた。きつく、きつく、互いに痛いと感じるほどに。二人が通じ合えたことを噛み締めるように、強く抱き合った。
ㅤしばらくそうしていたが、やがてもっと先へ進みたくなった。というより、こんな状態でずっと止まっているのは、さすがに無理がありすぎる。
「桜……動いて、いいか……?」
「はい……先輩の好きなように、どうぞ……」
ㅤ……危なかった。今の桜の言葉は反則すぎる。しかもとても魅力的な笑顔だったからなおさら。
ㅤ今思い留まらなかったら、内にたまった欲望のまま、桜をどうしていたかわからない。激しくすることが全部悪いとは思わないし、交わっている内にそうなってしまいそうではあるのだが、最初からそうするのは違う気がする。
ㅤだから最初とゆっくりと。桜の感触を確かめられるように、優しく腰を動かす。
「んっ……」
ㅤだというのに、たった一往復だけで信じられない程の快楽が俺を襲った。そのせいで耐えられずに腰を止めそうになったが、それは堪えた。
ㅤ桜はその身体を俺に委ねてくれている。だったら、俺がちゃんと悦ばせてあげなくちゃだめだ。
「あ……んっ、ん……は……せん、ぱい……」
ㅤ優しく受け入れてくれている桜の中で、遅いペースで生殖器を動かす。膣は俺の動きに合わせて形を変えて、毒のように快楽を運んでくる。その感覚だけでどうにかなりそうだった。
「さくら……っ、く、あ……」
ㅤしかし、毒はそれだけではなかった。俺を見つめてくる桜の淫らな反応も、俺の精神を侵してきた。目はとろん、と溶けているかのような色を孕み、その口から漏れる悩ましげな声は、脳を破壊されるようだった。
ㅤその毒が俺の理性を壊し始めた。自分のため、桜のためにと優しく動かしていた腰は、僅かにスピードを増していく。
ㅤそれに合わせて、快楽もその大きさを増す。何倍にもそれは膨れ上がり、媚薬でも飲まされたのかと錯覚するほどだ。
ㅤいや、媚薬というより、麻薬だ。ほんの少し腰を速くするだけで、快楽が大きくなる。だから、もっと大きなものが欲しくてさらに動きが激しくなっていく。
ㅤこんなの本当にどうかしかねない。いや、もうおかしくなっているのか。頭の中は快楽と桜だけで埋め尽くされている。
「はぁっ、ん……っ、あっ、や……んん……っ……せんぱいっ、あ、ん、すご、い……!ㅤせんぱい、ん、あっ、いい……あっ、ん、きもち、いい、ですっ……!」
ㅤ俺が腰を打ち付ける度にそれに応えるように桜が喘ぐ。その声でまともな思考が、いや思考すらできなくなっていく。俺の肉棒と桜の花びらは、互いの液でどろどろで、まるで溶け合っているようだ。それをもっと味わおうと、さらに激しく腰を動かす。
「あ、ぅあ……っ、ん、はん……っ!ㅤや、せんぱいの、はげしく……なって、んあっ……!ㅤあんっ……あはっ、んっ、いい、いいです、せんぱい……っ!」
ㅤ熱くなっていく声。どこか甘えるようなその声は、俺の脳髄まで染み渡り意識を溶かしていく。それと同じように、桜の中もより強く俺を求める。肉棒全体を強く締め付けたり、先端や竿だけを縛ってきたりもする。
「は、あっ……は、ん……っ、ひあぁっ……!ㅤせんっ、ぱぁいっ……あ、あんっ、はぁっ……!」
ㅤほんの数分も経たずに、性交は激しく、荒々しいものになっていた。ぱん、ぱん、と肌を打ち付けて、愛欲と快楽を貪り合うように交わる。
ㅤまともに回らなくなった舌で互いの名を呼びながら、何度も何度も腰を動かす。もうどちらのものかわからなくなった液を、互いの生殖器でぐちゅりぐちゅりと混ぜ合わせ、狂ってしまったかのように求め合った。
ㅤ互いの理性はどこかに消し飛んで、己の本能のままに腰を打ち付け合った。それこそ、発情しきった獣のように。
「さく、ら……桜、さくらっ……!」
「せんぱいっ……!ㅤあっ、ん、すきっ……好きです……!」
ㅤ求め合う声と溶け合う意識。このまま全部、心も体も全部桜と一つになって溶けてしまいたい。そんな感覚に陥るほどの快楽。
ㅤでもまだ果てられない。桜がこんなにも強く俺を求めているんだから。正直、もう出してしまいたいが、それ以上にもっと桜とこうしていたいという気持ちが強かった。
ㅤそのために歯を食いしばって、懸命に射精をこらえる。桜はそんな俺には構わずに、俺の動きに合わせて腰を動かして、より強く快楽を伝えてくる。その快楽で視界が歪む。周りの事が目に入らず、桜だけしか見えなくなっていく。
「あっ、んあっ……く……はぁっ、せん……っ、ぱいっ……!ㅤはっ、ああっ……んっ……!ㅤもっと、おくっ……ついてっ……!ㅤひぁっ……あっ、あは、んぁ……っ!」
ㅤ普段からは想像のつかないほど乱れた桜の姿。俺が桜をそうさせたと思うと、言い様のない支配感がこみあげてくる。でもそれは桜だけじゃない。 俺だってとっくに桜に狂わされている。こんなにも激しく桜と交わっているのに、まだ足りないと桜を強く求めている。それのどこが狂っていないと言えるだろうか。
「先輩、せんぱいっ……!ㅤんっ……は……すき、だい、すき……!ㅤあっ、あん……っ、はぁっ……!ㅤだか、らっ……もっと……!」
ㅤ激しく、それでいて甘く溶けるような嬌声。肉体的な快楽も熱く焼けそうなほど高まっているが、それ以上に精神的な快楽が大きい。一番好きな女の子を抱いて、こんな風に何度も好きだ、と言われているのだから当たり前だ。
「桜っ……さくら……!」
ㅤそれに応えるように貫く。射精を必死にこらえながら、何度も腰を打ち付ける。その度に中から蜜が漏れ出して、互いの結合部をどろどろと濡らしていく。
「ふあっ、は、あっ、ん……っ!ㅤは、そんなに、はげしくした、らっ……イっちゃい、ます……っ!」
ㅤもう互いに限界まで快楽は高まっていた。身体の中身までも吐き出してしまいそうな感覚。でも別にそうなったっていい。桜と一緒に果ててしまえるのならば、他の事なんかどうでもよかった。
ㅤ桜を抱き締めて、桜とひとつになって、愛し合っているこの時がただ嬉しかったから。幸福感と言えるほど綺麗な感情ではなく、罪悪や欲望の入り雑じった複雑な気持ちだけれど、桜を愛しいと思うこの気持ちは本物だと思った。
「はっ、せんぱっ……あっ、もうっ……!ㅤ わたしっ、あっ……!ㅤいく、いっちゃうっ……!ㅤや、せんぱ、せんぱいも、いっしょ、に……っ……!」
ㅤ桜の声がその限界を伝えていた。もう終わってしまうと。そしてそれは俺も同じ。
「く……ああ、桜……っ、おれ、も……!」
ㅤ桜の手足が俺に絡み付き、それと一緒に膣も俺を強く締め付けた。その瞬間何も考えられなくなって、桜の中へ溜まっていた精を放出した。
「あ……ん……せんぱいの、わたしのなか、に……」
ㅤ桜は俺を抱き締めたまま、俺の精液を受け止めてくれている。それに甘えてどくどくと溢すように射精する。
「ふぁ……あ、せん、ぱい……」
ㅤ桜が恍惚とした表情で脱力していく。強く締め付けていた膣も、今は優しく俺を包んでいる。
「は……あ……」
ㅤ中から溢れ出る程の精をやっと全部出し終わった。
ㅤでも。
「あ……せんぱいの、まだ……」
ㅤまだ、生殖器は萎えていなかった。あんなにたくさん出したというのに、まだ固さを失っていない。それに、未だに桜を求める気持ちは残ったままだ。でも、それはさっきのように歯止めが効かなくなるようなものではなく、もっと桜と繋がっていたいという願望だった。
「あの……先輩、もっとしますか……?」
ㅤ俺が聞く前に桜に言われた。もちろん、していいのならもっとしたい。でも桜が心配だった。さっきあんなに激しくしてしまったから、桜の身体の負担になるようならしたくない。
「でも、桜……その、大丈夫なのか?」
「私は大丈夫です。……それに、その……私も、もっと先輩とこうしていたい、ですし……」
「桜……」
ㅤそんな甘い桜の言葉に、また劣情が昂ってしまいそうになるが、それはなんとか抑える。さっきのような激しいのは無しだ。もっと深く、もっと長く桜と繋がっていたいから。
「あ……先輩……?」
ㅤ桜を抱き締めたまま、身体を起こす。俺は座っていて、桜はその上に乗るような形。 所謂、対面座位だ。この体勢なら、もっと落ち着いて桜と一つになっていられる。
「んっ、先輩、これ……」
ㅤでも一つ欠点があった。この形だとさっき以上に桜の感触が伝わってくる。いや、それは元々わかっていたことだけれど、これはさすがに予想以上だ。身体に触れる柔らかい胸の感触、座らせた脚に伝わる弾力のある尻。そして、より深く突き入れた肉棒を包む温かい膣。全て想像以上で、生殖器はさらにその固さを増していく。
「んっ……あ、ん……っ、はぁ、あ……」
ㅤそのままゆっくりと腰を動かす。先ほどよりも緩やかな快楽。遅い動きからのもどかしさと、桜の中からの優しい愛撫。それは激しさこそないが、甘美な誘惑を伴ったものだった。
ㅤ桜の膣は、肉棒を優しく包んだまま、適度な締め付けで快感を運んでくる。引き抜くときも突き入れるときも、その動きを妨げずに、ぬるりとした感触を伝えてくる。そしてその無数の襞は、緩慢な動きでありながら確かに肉棒を責め立ててくる。
「はぁっ……せんぱい……ん、ぁ、は……わた、し……もう……ぁん、 イキ……そう、です……は、あっ……」
「え……さく、ら……?」
ㅤ一度達したからだろうか。桜の限界は想像よりもかなり早かった。そしてそれを証拠付けるように、膣の締め付けが少しづつ強くなっていく。それに伴い、俺の射精感も急激に高まっていく。
ㅤまずい。長く続けたいと思ったのに、これじゃすぐ終わってしまう。でも抗えない。締め付けは強烈になっていくし、一度出したせいか俺のブレーキもきかなくなっている。
「あ……だめ、せんぱいっ……!ㅤイ、く……っ!」
「く……さくらっ……!ㅤおれも、だめ、だ……!」
ㅤ甘い膣の感覚と迸る射精感のまま、桜の中にどくん、と精液を解き放った。一度出したにも関わらず、その勢いと量は先程以上だった。
「あ……せんぱい、の……いっぱい……でて……」
「さくら……」
ㅤびゅくびゅくと溢れる精液を、桜は甘い吐息を漏らしながら受け止める。心地よさげに絶頂の余韻に浸る桜。その身体を優しく抱きながら、精を吐き出す。
「は、ぁ……すご、い……せんぱいの、まだでてる……」
ㅤ──でも。これはいくらなんでも出過ぎだ。生殖器から放出される精液は、勢いを弱めることはすれど、一向に止まる気配がない。
ㅤとくん、とくんと、残ったものを絞り出すような射精が続く。
「あっ……さくら……それ、はっ……」
ㅤいつの間にか桜の腰が動いていた。その動きは、未だ残っている精液を搾り取るように、優しく責め立てる。
「いいんですよ……せん、ぱい……すきなだけ、だしてください……んっ、あ……っ、わたしに、もっと……っ、ください……ぁ、は……」
ㅤ桜の甘い誘惑。今の俺にそれに抗う術はない。ただ、桜の望むままに吐精することしかできない。だから、俺も桜と同じように腰を動かし始めた。当然、快感はその分膨れ上がり、射精は止まらなくなっていく。
ㅤでもそれで構わない。そんなことどうでもいい。桜がこんなに俺を求めていて、俺も死ぬほど心地いい。だったらそれを止める必要なんてない。
「ふあ……せんぱい……あん、ん……っ、は……ん、ぁ……」
ㅤ二人の動きは緩慢だ。もたらされる快楽は、一回目よりも大きくはない。しかし、それは俺達がこの性交に溺れるには充分だった。むしろ、一度に大きな快楽が襲ってこないだけに、少しずつ深みへと落ちていくようだ。
ㅤ与えられる快感のまま、互いに軽い絶頂を何度も迎える。その度にごぽごぽと精液が溢れ、性器同士の摩擦を助ける。快楽は何度もその形を変え、少しづつだが確実にその大きさを増していく。
「あっ、は……んぁ……せんぱいの……っ、どくどくって…… あ、んっ、ふぁ……すごいっ、はっ……んっ、あっ、もっと……もっとだしてっ……せんぱいっ……」
ㅤ過剰な量の精は、愛液と混ざり合い、中からだらしなく溢れ出る。びちゃりびちゃりといやらしい音を立てながら、二人の性器を溶かしていく。もちろん、本当に溶けているわけない。でも快楽は、本当にそうであるかのように錯覚させる。
ㅤそれは先程の激しいキスよりも甘い甘い感覚。あれも、互いの舌がまるで溶けているかのように感じたが、これはそれ以上だ。
ㅤ身体のなかで最も快感を感じ取れる部分を絡め合っているのだ。その上、桜の熱い蜜と俺の生温かい精で、互いのものはどろどろになっている。
ㅤ性器同士の境界はあまりに曖昧だが、それを確かめる必要なんてない。確かめるのはお互いの心だけでいい。もたらされる快感に身を任せ、快楽の海の中で桜とそれを確かめ合えれば、それでいい。
「や、あんっ……せんぱい、せんぱいっ……すき……すきぃっ……は、あっ……わたしの、わたしのせんぱい……っ……」
ㅤもう、感覚はまともに機能していない。溶けるような快楽、甘い桜の声。それに酔わされ、頭の中が真っ白になる。
ㅤ不安も、危惧も、全部どうでもいい。このまま桜と壊れてしまいたい。既に半分は壊れている。理性はとっくの昔に消えて、桜への情欲以外の感覚は精液と共に流れ出ていく。
「さくら……さくらっ……はぁっ、く……」
「せんぱいっ……あ、もう、だめ……わたし、おかしく、なっちゃう……っんぁ……は……」
ㅤそれは桜も同じだった。淫楽に浸った目に、とろけきった表情。きっと、俺も同じような表情をしているのだろう。
ㅤ互いに快楽を与え合い、身体を犯し合い、心を壊し合う。性器が数度擦れ合う度に、二人同時に達して、とぷとぷと膣に精液を注ぎ込む。これ以上ない、至極の快楽だった。
ㅤでも、それはいつまでも続く訳じゃない。欲望に際限はなくとも、体力となれば話は別。俺たちが互いを欲すれば欲するほど、体力はすり減っていく。それは逃れられない必然だ。
「あっ……せんぱいっ……いく、いっちゃいますっ……」
「さくら、おれ、もっ……また、でるっ……」
ㅤそれは何度目の絶頂だっただろうか。一際強い快感が襲って、俺たちは互いに腰を止めた。性器だけじゃなく、身体も脳も飛んでしまいそうな快感。
ㅤそれを感じた瞬間、バチリと意識の電源が落とされた。それは桜も同じだったようで、ばたりと俺の身体に倒れ込んできた。表面上の意識では疲労なんて微塵も感じていなかったが、確かに身体には負担が掛かっていたのだ。身体はピクリとも動かせずに、溶け合った意識のまま、桜と繋がったまま、眠りへと落ちていく。
ㅤそして完全に意識が消えるその瞬間、
「あいしてます……せんぱい……」
ㅤ愛しさの籠った、桜の呟きが聞こえた。
ㅤその声に応えようとするが、ただ一言言葉を紡ぐだけの意識すら残っていなかった。
ㅤだからせめてその代わりにと、いつのまにか重ねられていた桜の手を握りかえした。